韓国ではここ数年、ヒップホップやR&Bと、アメリカでチャートを席巻している音楽のスタイルを継承することが大流行しています。そして、人気が出ると、やはり作り手としてはその流れに従うのが、ポップスの世界ではあたりまえなので、どの歌手も、似たニュアンスでもって、曲をつくりこんできます。すると、おのずから、ステージのパフォーマンスも似たり寄ったりになってしまいます。
しかし、天上智喜に限っては、ちょっと違います。特に、Stephanieのダンスです。 音楽、特にポップスのステージというのは、演劇やミュージカルとは違って、ストーリー性が希薄なため、批評のようなことも、難しいと思います。個々の楽曲の長さも短いため、クラシックに比べても、一層、ストーリー性が希薄になります。すると、批評のための様々な概念装置が使いにくくなってくるように思います。あまりにも流動性が高い舞台芸術だからです。 そういう意味で、ポップスのステージは、どちらかと言うと、スポーツに近いように思います。しかし、スポーツならまだ、競技ごとの特性があるので、それなりに物が言いやすい。場合によっては、科学的な分析も可能です。ところが、ポップスのステージとなると、大衆性があまりにも一元的な価値を持っているため、ますます物が言いにくい。 しかし逆に、ミュージシャン個人のバックグラウンドが、表に出てきやすいのが、ポップスのステージだとも言えます。ストーリー性があると、それが規範のように作用して、ステージ上の出演者個別性は埋もれてしまう。また、スポーツの場合は、競技者の競技者としてのフィジカル面に関心が注がれることはあっても、それより広いバックグラウンドは、ドキュメンタリー番組でも作られない限りは、前面に出てこない。 しかし、特にポップスというジャンルはそうだと思いますが、音楽を演奏したり歌を歌うべくステージに上がっているミュージシャンやアーティストの場合は、彼ら彼女らのバックグラウンドが、比較的ストレートに、観客に対して開け放たれます。 Stephanieのダンスは、浅く見るならば、いま流行しているヒップホップ的なダンスかもしれない。でも、それは、あくまでも、浅く見ればの話です。よく見ると、手足の動きが非常になめらかです。しかも、手の指にまで気持ちが入っています。彼女のバレー・ダンサーとしての経歴が表に出てきているからだと思います。 しかし、これは、ヒップホップに余計な要素が入っているということではなく、それこそが彼女のダンスだ、ということなのです。特に、Boomerangのソロのダンスを見てみると、重いリズムのダンス・ミュージックをやっていて、こんな踊り方をする人は、他にはまずいない、ということが分かります。確かに、重いリズムにのっている分、タフさや強さのイメージも感じるのですが、タフさのポイントが、黒人のヒップホップ・ダンスとは違う場所にあるし、また、同じ韓国の他のアーティストとも違う場所にある。 とてもなめらかな動きをするので、リズムが重いにもかかわらず、羽根のような軽やかさがあります。これは、Stephanieが、これまでどんなふうにダンスに関わってきたかが、素直に出ているからだと思います。ただ単に、「歌手をやるので、ダンスも習いました」というダンスではなく、体にしっかり染み付いた踊りが、ごく自然に、手足に、そして、指の先まで、ちゃんと出ている。きちんと時間をかけて練習を重ねてきたからです。 私は、このままがいいと思います。このスタイルを変えないほうがいい。できれば、バレーの練習も続けるほうがいいと思います。そして、ステージ上の振り付けにも、バレーの要素を積極的に入れるのがいいと思います。 ダンスに限らず、何でもそうだと思いますが、何かをつきつめたり、極めていくときには、基本的には、同じことを何度も繰り返すのだと思います。同じことを何度も繰り返すなかで、少しずつ余分なものが削ぎ落とされて、自分らしさのかたちが徐々に表面に浮かび上がってくる。でも、そのためには、できるだけ同じことを繰り返すほうがいい。あまりころころ変えないほうがいい。 だから、Stephanieには、今のダンスのスタイルを維持して欲しいと思います。いまやっているスタイルのダンスを、ずっとステージ上でも続けて、そして、その感触を確かめながら、少しずつ、無駄な動きや、無駄な飾りを捨てていって、これこそが自分のダンスだ、というかたちを、見つけていって欲しいと思います。
by tmasada2
| 2006-12-21 01:58
| 天上智喜
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